No.35
「フィニアンの虹」

  
  このレコードは1947年初演のブロードウェイミュージカルの映画化作品、そのサウンドトラック盤です。フレッド・アステアとペトラ・クラークの親子がレインボーバレーという小さな町で繰り広げるファンタジーです。いろんなミュージカルの映画を観ていますが、風景の美しさはサウンドオブミュージック以上ではないかと思います。フレッド・アステアを知らない人はいないと思いますが、この映画は若いころのものとは違い、年輪を感じさせるすばらしい表情を出していて、私は大好きです。
ペトラ・クラークも「恋のダウンタウン」でヒットした歌手なので知っている人も多いと思いますが、この映画の中の「How are things in Glocca Morra?」と「Look to the rainbow」は涙が出るほど絶品です。実際、アステアは映画の中でペトラ・クラークが歌うこの曲を聞いて泣いています。そして、この映画でジャズメンにとって一番有名な曲は「Old Devil Moon」でしょう。しかし、よく演奏されるような速い4ビートではなく、エキゾチックな恋を語るシーンでのバラードです。ジャズを演奏したり歌ったりする時は、その曲が本来どのようなものなのかを知らないと、中身のない表面だけのものになります。ほとんどのミュージシャンがそうですが。アステアの話をすると原稿用紙が何枚あっても足りないので、やめときます。
 

No.34
「NIGHT AND DAY」コール・ポーター

  
  今月はレコードではなくDVDです。最近、昔のアメリカ映画のDVDが500円ぐらいからたくさん発表されていて、私もミュージカルを中心に何10本か買って時々観ています。
そんな中で有名な作曲家コール・ポーターの半生を描いた「NIGHT AND DAY」という作品があります。といってもほとんどフィクションだと思いますが。聞き馴染みのある曲が次々と出てきて私にとっては最高に楽しいです。コール・ポーターの曲は昔からジャズの素材として多く演奏されてきたのでジャズメンにはバイブルみたいなものかもしれませんが、彼の曲をアドリブの素材としてしか捕らえられないミュージシャンがほとんどで、しかし、それではコール・ポーターの音楽の本質を理解することはできません。ガーシュインにしても、ジェローム・カーン、更にミッシェル・ルグランにしてもそうです。
ひとつひとつのシーンに流れる美しいメロディとダンスのすばらしさに感動することができない人はこのようなすばらしい作曲家の本質を絶対に理解することはできないでしょう。そのようなミュージシャンは一生、自己満足のおしつけを人に聞かせて自己満足するしかないのです。私は自己満足のおしつけの演奏はお金をもらって聞きに行きません。本当に音楽が好きな人は(楽器が好きな人ではありませんよ)この映画を観れば、コール・ポーターの美しいメロディとアレンジに再度感動するはずです。
 

No.33
「MARILYN MONROE」

  
 大女優マリリン・モンローです。説明の必要はありません。私は熱狂的なファンというわけではありませんが、彼女の映画はほとんど観ています。映画の中で歌われる彼女の歌はテクニックや理論を超えたすばらしさがあり、芸術の域に達していると私は思います。「帰らざる河」「ファインロマンス」「恋よりダイヤ」「アイム・スルー・ウィズ・ラブ」等、どんなテクニシャンのジャズ歌手が歌うより本物のジャズだと思います。
1962年に亡くなるまで数多くの映画に出演していますが、私は彼女にセクシーアイドルとしてではなく、一人の不幸なかわいい女性としてのイメージしかわきません。作家アーサー・ミラーの子供を流産し、悲しみのどん底で亡くなるまでどんなにつらかったか想像すると、彼女にひかれてゆきます。映画も子供と係わるものが多く、観ているとこちらがつらくなってきます。最後の「SOMETHING'S GOT TO GIVE」は亡くなったので未完ですが、母親役でした。「SOMETHING'S GOT TO GIVE」のドキュメンタリー風のDVDを持っていますが、亡くなる前の彼女のいろんな表情がうかがえて身近に感じることができました。貴重な彼女の直筆サインやジョー・ディマジオと来日した時のインタビューの雑誌等も持っていますが、まだまだ彼女への興味は尽きそうにありません。
 

No.32
「Soul of Things」Tomasz Stanko

  
 先日、チェロの原田禎夫さんとピアノの加藤洋之さんのデュオのコンサートを聴きに行きました。すばらしい表現力と音楽性に感動したコンサートでした。中でもベートーベンのチェロソナタ第5番は、ヨーヨー・マの演奏等でよく知った曲なのですが、CDで聴く音とは全く違ったようにきこえ、再度曲のすばらしさにも感動しました。第3楽章のフーガは淡々としたイメージがあったのですが、原田さんのチェロと加藤さんのピアノの情熱的な表現にも驚きました。熟練した職人の芸術はジャズのライブとは違い、その中に没頭させてくれて安心して最後まで楽しむことができ、充実感のある演奏でした。
さて、今月は久しぶりにジャズのアルバムです。トランペットのトーマス・スタンコ、この人の演奏は数多くあるコピーの演奏ではないので、私はすごく好きなミュージシャンです。「Suspended Night」というすばらしいアルバムもありますが、私はこの「Soul of Things」が好きです。静寂の中にも激しさがあり、トーマス・スタンコにしかできない表現が伝わってきます。口でこの独特な世界を説明することができないので、ぜひ一度聴いてみて下さい。
 

No.31
「展覧会の絵」 オーケストリオ、チューリッヒ

  
 ムソルグスキーの有名な組曲です。私が高校生の頃、エマーソン、レイク&パーマーのライブ盤ではじめて「展覧会の絵」を知りました。当時は、プロムナードやキエフの大門といったメロディックな曲以外はあまりよくわかりませんでしたが、今はこの組曲のすばらしさがよくわかります。いろんな人が演奏していますが、特に異色なのは、6本のチェロと4本のコントラバスで演奏している、ラハティ交響楽団低弦アンサンブルと、このオーケストリオ、チューリッヒではないでしょうか。ギター、コントラバス、ヴァイオリンのトリオで演奏しているのですが、本当に美しく緊張感のある演奏で、とてもトリオとは思えないくらいです。ギターのワルターギーガーは元ロックギタリストですが、世界中のジャズギタリストに聞かせてあげたいぐらいです。こうしてひとつのCDを造り上げてゆき、リスナーがそれを買い満足する。大変難しいことだと思います。今の人達は簡単にCDをつくってそれを売っています。大変恥ずかしいことです。少なくとも私には通用しません。みなさんがだまされないように本物を見極める力をつけなくてはなりません。それには、多くの本物の音楽を聴いて感動することです。
 
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